過剰な薬物報道の弊害
薬物報道は、以下のような人々に影響を与えます。
虐待などによる痛みを抱えた子どもは、危険なものにひかれる。白い粉や注射器などのイメージ画像、恐ろしげな扱いで薬物への関心が増す。
犯罪者として糾弾し、反省を迫り、プライバシーをさらす報道によって、助けを求めるチャンスを奪う。治療・回復の場につながるのを遅らせてしまう。
報道が欲求を刺激し、再発のきっかけとなる。また、自分たちは社会に忌み嫌われているとの思いを抱かせ、回復・社会参加の意欲をそぐ。
社会的制裁を受ける不安、私生活を侵害される不安、依存症者を自分の責任で立ち直らせなければというプレッシャーによって孤立させる。
依存症に対する誤解と偏見を助長する。
問題報道の例
ワイドショーでのコメンテーターの発言は、ネットニュースに紹介され、拡散されるため、多大な影響を及ぼします。一個人の発言として看過できないのは、そのためです。
【1】元野球選手 覚せい剤逮捕(2016年2月)
*ワイドショー出演者のコメント
「なんで野球界は永久追放を言いださないのか? 普通の企業だったら一発解雇で、2度と会社の前に来るなですよ」「今、清原に甘い言葉は必要ない。厳しい言葉が必要。それが第二第三の清原を生まないことになる。それが第二第三の清原を作らないことになる。日本は薬物の問題に対して甘いんですよ!」「更生の話は、10年以上たって、薬物が抜けて、目の前に覚せい剤があっても手を出さなくなって、初めて更生の話ができる」
→依存症者を社会から排除するかのような発言で、偏見を助長
→病気としての視点、回復を応援する視点が皆無
【2】元俳優 覚せい剤逮捕(2016年6月)
*ワイドショー出演者のコメント
「一番何が腹立たしいかっていうと、警察へ護送されるときにふてぶてしい態度をとっている。下向いていない」「彼の性格が出ている」「たぶん彼は清原が護送されるのを見ていて、俺は捕まったときは下を向かないぞっていう思い中でああいう態度をとっている」「たぶん今現在も反省してないと思う」
*ワイドショー出演者のコメント
(麻薬取締官に対し「ありがとう」と発言したとされる件に対して)
「『来てもらってありがとう』なんて彼にとって軽い言葉だなと思ってる。彼は現場現場でそういう言葉が出るタイプだと思う。本当に更生したいんだったらこんな言葉は出ない。『ありがとう』なんて、ふざけんなっていう感じがする」
→逮捕されることで、ようやくこの状況から抜けられると感じる依存症者の心理を知らない発言、偏見を助長
【3】ミュージシャン 覚せい剤逮捕→不起訴(2016年11月)
*ワイドショー出演者のコメント
「自由がないってねぇ、こういった薬物依存症の方を自由勝手に病院の外に出させたりとかね、そういったことはさせないでしょ!」
※その後、逮捕前のミュージシャンと、芸能レポーターの生電話を本人の許可なくTVで放映。また未発表の楽曲も無断公開。
→隔離するのが当然のような発言、偏見を助長
→プライバシー侵害、著作権侵害
(ネットを中心とした世論が行き過ぎ報道を批判。不起訴処分後に、コメンテーターが番組で謝罪)
*報道陣が逮捕の一報後、自宅に押し寄せる
出頭時には、車にレポーターが群がり、車のエンブレムが壊される
*ミュージシャンを乗せたタクシー会社がドライブレコーダーの映像を公開し、それを民放各社が放映
→プライバシー侵害、器物損壊
(後にタクシー会社が謝罪。国土交通省が、全国ハイヤー・タクシー連合会など3団体に向けて、「ドライブレコーダーの映像の適切な管理の徹底について」と題する通知を送った)