<薬物報道ガイドライン>

【望ましいこと】

  • 薬物依存症の当事者、治療中の患者、支援者およびその家族や子供などが、報道から強い影響を受けることを意識すること
  • 依存症については、逮捕される犯罪という印象だけでなく、医療機関や相談機関を利用することで回復可能な病気であるという事実を伝えること
  • 相談窓口を紹介し、警察や病院以外の「出口」が複数あることを伝えること
  • 友人・知人・家族がまず専門機関に相談することが重要であることを強調すること
  • 「犯罪からの更生」という文脈だけでなく、「病気からの回復」という文脈で取り扱うこと
  • 薬物依存症に詳しい専門家の意見を取り上げること
  • 依存症の危険性、および回復という道を伝えるため、回復した当事者の発言を紹介すること
  • 依存症の背景には、貧困や虐待など、社会的な問題が根深く関わっていることを伝えること

【避けるべきこと】

  • 「白い粉」や「注射器」といったイメージカットを用いないこと
  • 薬物への興味を煽る結果になるような報道を行わないこと
  • 「人間やめますか」のように、依存症患者の人格を否定するような表現は用いないこと
  • 薬物依存症であることが発覚したからと言って、その者の雇用を奪うような行為をメディアが率先して行わないこと
  • 逮捕された著名人が薬物依存に陥った理由を憶測し、転落や堕落の結果薬物を使用したという取り上げ方をしないこと
  • 「がっかりした」「反省してほしい」といった街録・関係者談話などを使わないこと
  • ヘリを飛ばして車を追う、家族を追いまわす、回復途上にある当事者を隠し撮りするなどの過剰報道を行わないこと
  • 「薬物使用疑惑」をスクープとして取り扱わないこと
  • 家族の支えで回復するかのような、美談に仕立て上げないこと

TBSテレビ「白熱ライブ ビビッド」に対する改善申し入れ

依存症問題に知識のない人の無責任なコメントを報道しない配慮を!

私たちは、日本の薬物問題、また依存症対策に関わる者として、今回の高知東生容疑者をめぐる報道について、強い憤りを感じています。依存症問題について知識のない人の無責任なコメントを報道することは、日本社会にはびこる依存症への偏見と誤解を強め、早期支援・回復の妨げとなるためです。報道機関としての配慮を強く求めます。

6月28日放送の貴番組において、コメンテーターのテリー伊藤氏は、高知容疑者について、「一番何が腹立たしいかっていうと、警察へ護送されるときにふてぶてしい態度をとっている。下向いていない」と指摘し、「彼の性格が出ている」「たぶん彼は清原が護送されるのを見ていて、俺は捕まったときは下を向かないぞっていう思いの中でああいう態度をとっている」「たぶん今現在も反省してないと思う」と発言されました。
翌29日の同番組でも、高知容疑者が逮捕時に「来てもらってありがとうございます。」と話したとされる件につき「『来てもらってありがとう』なんて彼にとって軽い言葉だなと思っている。彼は現場現場でそういう言葉が出るタイプだと思う。本当に更生したいのだったらこんな言葉は出ない。『ありがとう』なんて、ふざけんなっていう感じがする」と発言しています。
これらの発言は、依存症という病気の本質を理解していないばかりでなく、さまざまな依存症の患者、家族の思いを踏みにじるものです。

「逮捕された瞬間、ホッとした。これでやっとクスリがやめられるかもしれないと思った」。これは、きわめて多くの薬物依存症者が語る体験です。だから「来てもらってありがとう」という高知容疑者の言葉は、私たちにとって、ごく自然な印象を感じるものでした。
依存症者は、その行為が「いけないこと」「やめなくてはならないこと」と十分に承知し、やめるための努力を重ねます。しかしながら脳の機能不全により、自分の意志の力だけでは、依存物質を断ち切ることができなかったり、依存行為をやめることができなくなっています。そのジレンマに苦しみ、自分自身を一番責めているのもまた自分であり、テリー伊藤氏がいうような「反省のなさ」や「軽い気持ち」で依存し続けているわけではありません。
「やめるためには、自首するしかない」と、自ら警察に電話をするケースも多々あります。その家族もまた、長年に渡る依存症者の苦しみを間近に見て、断腸の思いで警察に通報する場合もあるのです。

テリー伊藤氏は、元プロ野球選手の清原被告が逮捕された際にも、同様の偏見に満ちた発言をしています。テリー伊藤氏に限らず、今回のような発言は、依存症の知識を持たない多くのコメンテーターに見られる傾向です。有名人の人格を否定し、スキャンダラスに暴き、依存症者がどんな態度をとっても、何を言っても全て否定的に批判する風潮は、日本の中で、依存症対策を推進する上で、大きな妨げとなっています。

国も先月から刑の一部執行猶予制度を施行し、薬物犯罪の人の回復を社会の中で見守っていく取り組みを始めています。田代まさしさんのように、罪を償った後、薬物問題の社会啓発に尽力する方も出てきました。
にもかかわらず、このような偏見に満ちた発言が番組内で繰り返し発せられることは、対策を推進している関係者の努力を踏みにじり、時代を逆行させるものであります。番組が、依存症者に対する負のイメージを植え付け、苦しみの中にある当事者や家族から、支援機関に相談する気力を奪ったり、社会復帰を果たしている依存症者への偏見を高める恐れもあります。
以上のことから、私たちは貴社に、依存症問題について知識のない人の無責任なコメントを報道しないよう配慮を求めるものです。どうか報道を通して、依存症という病気への理解を広め、回復や社会復帰を応援してください。

今回、facebook等で私どもの思いをつづったところ、多くの専門家、当事者家族の方々から強い共感が寄せられました。
日本で薬物依存症の治療と研究の第一人者である松本俊彦医師( 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部部長)も、「マスメディア関係者一同に猛省を促したい」と意見表明をされており、賛同人のお一人に加わってくださいました。
番組の関係者の方々と、現場との「意識のずれ」を知っていただきたいと強く願っています。

当団体の理念と目的

依存症問題の正しい報道を求めるネットワークは、2016年7月、依存症関連の市民団体、当事者団体、家族、治療者、研究者らの有志によって結成されました。
ひとくちに依存症といっても、アルコール、薬物、ギャンブルなど、取り組む問題はメンバーによってさまざまで、ふだんは別々に活動しています。
ただ、テレビ、新聞、雑誌などのマスメディアで、私たちが見過ごせないと感じる問題報道がなされたとき、協議し、改善を求めていくことが、このネットワークの主な活動です。
依存症は、とても理解されにくい問題です。
本来、マスメディアは、社会問題の正しい理解を世に広め、問題の改善に寄与することを報道の目的としているはずですが、依存症問題においては誤解や偏見、中傷をまきちらすことが決して珍しくはありません。
それは医学的に誤りであるだけでなく、患者や家族を追い詰め、治療意欲を奪ってしまったりします。危険ドラッグ、著名人の薬物スキャンダル、ギャンブル依存症と生活保護制度など、何か注目される問題があるたびに、必ずといっていいほど、問題のある報道が発生します。
今までの私たちは、マスメディアの無理解や暴力性について、たびたび怒ったり、嘆いたりしながらも、何がどう問題なのかを指摘して改善を求めていくことに消極的でした。でも、それでは同じ過ちが繰り返されてしまう。そんな反省から、このネットワークを立ち上げました。
報道の責任を問うことが目的ではありません。
マスメディアが「情報の架け橋」として機能し、世の中の依存症問題が改善されていくことを目指して、私たちの実感をもとに声を上げていきたいと思います。
ご理解、ご協力をよろしくお願いいたします。

取材・お問合せは

03-3555-1725 まで

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