テレビ朝日『相棒 season 17』第4話への要望書を提出
依存症問題の正しい報道を求めるネットワークは、2018年11月15日付で株式会社テレビ朝日に対し要望書を提出しました。
以下は、そのテキストになります。
株式会社テレビ朝日
代表取締役社長 角南源五 様
私たちは、日本の薬物問題、また依存症対策に関わる者として、テレビ朝日『相棒 season 17』第4話での覚せい剤依存症者への差別的な演出について、強い憤りを感じています。
子どもが遊ぶ白昼の公園に突然、白目をむいたゾンビのような風体で現われ、いきなり警官をハンマーで撲殺し、取調室では「シャブ山シャブ子」と名乗り、幻覚でも見ているかのようなしぐさをする……これは、覚せい剤依存症の実態からはかけ離れた、異様な演出です。
登場時間はわずか1分ほどでしたが、あまりにも衝撃的だったため、放送直後からネットでは「マジ怖かった」「怖すぎて、物語に集中できなくなった」といった感想が書き込まれ、「シャブ山シャブ子」という言葉は、Twitterのトレンドワードに入るほど広がりました。
日本社会では、「覚せい剤やめますか、それとも、人間やめますか」に代表される断罪的な乱用防止活動が長期間行なわれており、その弊害として「覚醒剤依存症者=凶悪な犯罪者」といった偏見が根付いて、あちこちで回復施設の排斥運動が起きています。
今回の「シャブ山シャブ子」はまさにこれを映像化したようなもので、偏見・差別・排除がさらに助長され、早期支援・回復・社会復帰の妨げとなることを、私たちは憂慮しています。
私たち「依存症問題の正しい報道を求めるネットワーク」では、人権侵害に及ぶ過剰な薬物報道を受け、2017年には「薬物報道ガイドライン」を作成、2018年には、依存症啓発に役立つ報道に対する「グッド・プレス賞」を発足させるなど、活動を行なってきました。
厚生労働省においても依存症への偏見を取り除く啓発事業を実施していますし、法務省も薬物依存症からの回復のための地域支援について、連携のガイドラインを作成しています。
今回の演出が、これらの懸命な努力を無にするものであることをご理解ください。
日本民間放送連盟「放送基準8章 表現上の配慮」に以下の規定があります。(56)精神的・肉体的障害に触れる時は、同じ障害に悩む人々の感情に配慮しなければならない。
『相棒』は視聴者から高い評価を受けている人気番組です。
その社会的影響力の大きさを自覚され、回復措置として以下の対応をされるよう求めます。
記
1.『相棒 season 17』における覚せい剤依存症者の描写が不適切であり、人権侵害であったことを、同番組内および貴社ホームページ等において謝罪すること
2.同番組ホームページ内に、薬物依存症が回復可能な病気であること、相談機関や回復の社会資源などについての情報を掲載すること
加えて、報道機関として、依存症全般の正しい理解を広める報道を今後も期待しています。
依存症問題の正しい報道を求めるネットワーク
(発起人 50音順)
今成 知美
特定非営利活動法人 ASK(アルコール薬物問題全国市民協会) 代表
上岡 陽江
特定非営利活動法人 ダルク女性ハウス 代表
近藤 恒夫
日本DARC 代表
斎藤 環
筑波大学 医学医療系 社会精神保健学 教授
佐原 まち子
一般社団法人 WITH医療福祉実践研究所 代表理事
田中 紀子
公益社団法人 ギャンブル依存症問題を考える会 代表
信田 さよ子
原宿カウンセリングセンター 所長
松本 俊彦
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所薬物依存研究部 部長
森田 展彰
筑波大学 医学医療系 社会精神保健学 准教授
横川 江美子
特定非営利活動法人 全国薬物依存症者家族会連合会 理事長
以上
TBSテレビ「白熱ライブ ビビッド」に対する改善申し入れ
依存症問題に知識のない人の無責任なコメントを報道しない配慮を!
私たちは、日本の薬物問題、また依存症対策に関わる者として、今回の高知東生容疑者をめぐる報道について、強い憤りを感じています。依存症問題について知識のない人の無責任なコメントを報道することは、日本社会にはびこる依存症への偏見と誤解を強め、早期支援・回復の妨げとなるためです。報道機関としての配慮を強く求めます。
6月28日放送の貴番組において、コメンテーターのテリー伊藤氏は、高知容疑者について、「一番何が腹立たしいかっていうと、警察へ護送されるときにふてぶてしい態度をとっている。下向いていない」と指摘し、「彼の性格が出ている」「たぶん彼は清原が護送されるのを見ていて、俺は捕まったときは下を向かないぞっていう思いの中でああいう態度をとっている」「たぶん今現在も反省してないと思う」と発言されました。
翌29日の同番組でも、高知容疑者が逮捕時に「来てもらってありがとうございます。」と話したとされる件につき「『来てもらってありがとう』なんて彼にとって軽い言葉だなと思っている。彼は現場現場でそういう言葉が出るタイプだと思う。本当に更生したいのだったらこんな言葉は出ない。『ありがとう』なんて、ふざけんなっていう感じがする」と発言しています。
これらの発言は、依存症という病気の本質を理解していないばかりでなく、さまざまな依存症の患者、家族の思いを踏みにじるものです。
「逮捕された瞬間、ホッとした。これでやっとクスリがやめられるかもしれないと思った」。これは、きわめて多くの薬物依存症者が語る体験です。だから「来てもらってありがとう」という高知容疑者の言葉は、私たちにとって、ごく自然な印象を感じるものでした。
依存症者は、その行為が「いけないこと」「やめなくてはならないこと」と十分に承知し、やめるための努力を重ねます。しかしながら脳の機能不全により、自分の意志の力だけでは、依存物質を断ち切ることができなかったり、依存行為をやめることができなくなっています。そのジレンマに苦しみ、自分自身を一番責めているのもまた自分であり、テリー伊藤氏がいうような「反省のなさ」や「軽い気持ち」で依存し続けているわけではありません。
「やめるためには、自首するしかない」と、自ら警察に電話をするケースも多々あります。その家族もまた、長年に渡る依存症者の苦しみを間近に見て、断腸の思いで警察に通報する場合もあるのです。
テリー伊藤氏は、元プロ野球選手の清原被告が逮捕された際にも、同様の偏見に満ちた発言をしています。テリー伊藤氏に限らず、今回のような発言は、依存症の知識を持たない多くのコメンテーターに見られる傾向です。有名人の人格を否定し、スキャンダラスに暴き、依存症者がどんな態度をとっても、何を言っても全て否定的に批判する風潮は、日本の中で、依存症対策を推進する上で、大きな妨げとなっています。
国も先月から刑の一部執行猶予制度を施行し、薬物犯罪の人の回復を社会の中で見守っていく取り組みを始めています。田代まさしさんのように、罪を償った後、薬物問題の社会啓発に尽力する方も出てきました。
にもかかわらず、このような偏見に満ちた発言が番組内で繰り返し発せられることは、対策を推進している関係者の努力を踏みにじり、時代を逆行させるものであります。番組が、依存症者に対する負のイメージを植え付け、苦しみの中にある当事者や家族から、支援機関に相談する気力を奪ったり、社会復帰を果たしている依存症者への偏見を高める恐れもあります。
以上のことから、私たちは貴社に、依存症問題について知識のない人の無責任なコメントを報道しないよう配慮を求めるものです。どうか報道を通して、依存症という病気への理解を広め、回復や社会復帰を応援してください。
今回、facebook等で私どもの思いをつづったところ、多くの専門家、当事者家族の方々から強い共感が寄せられました。
日本で薬物依存症の治療と研究の第一人者である松本俊彦医師( 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部部長)も、「マスメディア関係者一同に猛省を促したい」と意見表明をされており、賛同人のお一人に加わってくださいました。
番組の関係者の方々と、現場との「意識のずれ」を知っていただきたいと強く願っています。
依存症問題の正しい報道を求めるネットワークは、2016年7月、依存症関連の市民団体、当事者団体、家族、治療者、研究者らの有志によって結成されました。2022年には新たな発起人も加わりました。
ひとくちに依存症といっても、アルコール、薬物、ギャンブルなど、取り組む問題はメンバーによってさまざまで、ふだんは別々に活動しています。
このネットワークの主な活動は、テレビ、新聞、雑誌などのマスメディアで、私たちが見過ごせないと感じる問題報道がなされたときに、協議し、改善を求めていくことです。2017年には「薬物報道ガイドライン」も作成しました。
その一方で、2018年に「依存症報道グッド・プレス賞」を創設し、依存症への理解を助ける優れた報道を表彰するとともに、報道の第一線に立たれる方々と建設的な意見交換を重ねてきました。
依存症は、とても理解されにくい問題です。
本来、マスメディアは、社会問題の正しい理解を世に広め、問題の改善に寄与することを報道の目的としているはずですが、依存症問題においては誤解や偏見、中傷をまきちらすことが決して珍しくはありません。
それは医学的に誤りであるだけでなく、患者や家族を追い詰め、治療意欲を奪ってしまったりします。危険ドラッグ、著名人の薬物スキャンダル、ギャンブル依存症と生活保護制度など、何か注目される問題があるたびに、必ずといっていいほど、問題のある報道が発生します。
今までの私たちは、マスメディアの無理解や暴力性について、たびたび怒ったり、嘆いたりしながらも、何がどう問題なのかを指摘して改善を求めていくことに消極的でした。でも、それでは同じ過ちが繰り返されてしまう。そんな反省から、このネットワークを立ち上げました。
報道の責任を問うことが目的ではありません。
マスメディアが「情報の架け橋」として機能し、世の中の依存症問題が改善されていくことを目指して、私たちの実感をもとに声を上げていきたいと思います。
ご理解、ご協力をよろしくお願いいたします。